交通事故の将来の介護費
交通事故の被害者に重い後遺症が残ってしまい、ずっと介護が必要になることがあります。家族が介護するにしろ、人に頼んで介護をしてもらうにしろ、その精神的・肉体的・金銭的負担はとても大きくなります。
この負担を、交通事故の加害者(保険会社)に対して請求していくのが、将来の介護費という話です。金額がとても大きくなることも珍しくありません。
交通事故の将来介護費の算出方法
将来介護費の計算方法は以下のようになっています。
【請求できる日額】×365日×【中間利息控除された年数】
たとえば、交通事故のせいで介護が必要となってしまった人を、家族でこの先30年にわたって面倒をみなければならなくなってしまった場合、請求できる損害賠償額の計算方法は以下のようになります。
8,000円×365日×15.3725=約4,400万円
上記の金額を、そのほかの慰謝料や逸失利益とは別に、プラスでもらえます。仮に慰謝料や逸失利益、治療費等の合計が1億円であれば、合わせて1億4,400万円を請求できるということになります。
交通事故の将来介護費の日額
まず、日額について解説します。
1日にいくらで請求できるか?は、家族が面倒をみるのか、人にお金を支払ってみてもらうのかによって変わってきます。家族の場合は、後遺障害の等級1級や2級で1日4,000円から10,000円くらいのことが多いです。金額は、被害者の障害の程度、どのような介護が必要か、1日のうちどの程度、介護に費やすか等の諸事情を考慮して決めることになります。
ですから、妥当な賠償額を求めっていくためには、「介護がいかに大変か」ということを第三者にわかってもらうための工夫が必要となってきます。
人に頼む場合は、1日10,000円から30,000円台までのことが多いです。金額は実際に支払っている額、見積もりの額、被害者の障害の程度、何人頼まなければならないか、今後の負担額の変更可能性等の諸事情を考慮して決めることになります。実際には、見積額や実際の支払額より少な目にしか認められないことも多くあります。この場合も、必要な金額を認めてもらうためには、その金額が必要な事情をしっかり説明していく必要があります。
はじめのうちは家族で面倒をみられても、家族もやがて年をとります。いつまでも面倒をみることができるわけではありません。そこで、67歳を境に、それ以後は人に頼むことを前提にした費用を請求できることが多いです。
交通事故の損害賠償の基準のたたき台を記載した赤い本では、職業付添人は実費全額、近親者は8,000円としています(それどおり記載しているサイトも多くあります)。しかし、将来介護費は、総額が巨額になるため、相手方保険会社も徹底的に争ってくることも多いので、たたき台通りの金額があっさり認められるとは限りません。しっかりした体勢をととのえて請求していく必要があります。
交通事故の将来介護費の年数
上記の計算式を見たとき、どうして
8,000円×365日×30年
という計算方法にならずに
8,000円×365日×15.3725
となるの?15.3725って数字はなに?という疑問がわいてくることと思います。
これは、将来受け取る賠償金を前倒しで一括でもらうため、その間の利息を控除するという考え方(「中間利息控除」)をもとにして出された数字です。金利が5%だとすると、100万円は1年後には105万円に増やせるはず。だから、1年後の105万円の価値は、今だと100万円だという考えです。その積み重ねで計算していった結果、30年分が、15年分あまり(15.3725)になってしまいます。中間利息控除は年利5%で計算しますが、世の中の金利からすると高すぎる気がします。民法が改正されて、この金利も変わる見通しですが、改正までは5%です。
この高額な金利を回避する方法として、定期金賠償という方法があります。将来の治療費については、一括でもらわず毎年もらうという方法です。ただし、支払い途中で支払元の保険会社が倒産した場合、それ以降はもらえなくなっていまいます。大手の会社だから大丈夫だと思いたいところですが、ここ10年でみても「まさかあの会社が」ということもあったと思いますので、じっくり考える必要があります。なお、定期金賠償は裁判官によっては認めるのに消極的な場合もあります。
支払い期間は、平均余命までとするのが普通です。平均余命というのは、ある年齢の人があと何年くらい寿命があるかというデータ上の平均値です。そこで、平均余命より長生きした場合は、その分の介護費用はでないことになります。逆に、短命だった場合に余分となった分を返さなくてはならないわけではありません。
長生きした場合の介護費用をしっかり確保するためには、定期金賠償の方法があります。この方法であれば、平均余命より長生きしても介護費用の支払いを受けることができます。ただし、保険会社倒産のリスクと、裁判官が消極的な場合もあることは上で書いたとおりです。
交通事故の将来介護費を請求するうえでの注意事項
実際に介護がはじまった上で、人に頼んで介護をするのか、家族でするのかは悩ましい問題です。裁判になった場合、実際に人に頼んでいたほうが、その費用の請求が認められやすいという実状があります。半面で、もしその費用が裁判で認められなかった場合は、自己負担になってしまいます。ですから、早い段階で、人に頼んだ場合、その費用が認められそうかどうかについては弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故で体に障害が残っただけでなく、被害者本人の判断力が十分でない場合は、損害賠償の示談、裁判をすすめるにあたり、家庭裁判所に成年後見人の選任を求める必要があります。