後遺障害が残った場合の損害賠償
交通事故によりけがをして、後遺障害が残ってしまった場合に請求できる損害賠償のうち、代表的なものを挙げて解説します。
交通事故によりけがをし、これ以上治療をし続けても症状の改善がのぞめない状態になったとき(症状固定)に残ってしまった傷害を後遺障害(後遺症)とよびます。自賠責の手続では、症状固定後の症状を後遺障害別等級表にあてはめて、等級認定を行います。
交通事故の損害賠償は、金額の確定が難しい場合があるため、一定の金額の基準がいくつか公表されています。ここでは、そのうちの 自賠責の基準額と、 通称「赤い本(平成23年 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準)」の基準額を参考金額として記載しています。 赤い本の基準は、弁護士が相手を交渉したり、裁判を起こすような場合のたたき台となる金額ですが、個別の事情によって、これより高くなったり安くなったりします。
通常請求できる損害(治療費、交通費、慰謝料、休業損害、逸失利益)
治療費
通常の治療費、入院費等はすべて損害賠償の対象になります。ただし、以下のような場合は対象になるとは限りません。
- 自由診療で治療を受け、その金額が保険診療(健康保険を利用しての診療)に比べて高額になる場合
- 入院中の特別室利用料、差額ベット代
- マッサージ代、温泉治療費等、医師の指示による治療ではないもの
- 症状固定後の治療費
交通費
通院に必要な全額が対象となります。ただし、電車やバスなどの公共交通機関を利用して通院したほうが費用が安くすむにもかかわらずタクシーで通院した場合には、タクシーを利用せざるを得なかった事情が必要となります。
慰謝料
傷害慰謝料
通院期間と入院期間に応じて決まる額をベースに、具体的事情に応じて決めていきます。
- 自賠責:4,200円/日
- 赤い本:入院3ヶ月+通院3ヶ月の場合188万円
後遺障害慰謝料
後遺障害の程度に応じて決まります。自賠責、赤い本それぞれの等級別金額は以下のとおりです。
慰謝料
交通事故によりおったけがの治療のため、休業を余儀なくされ、その間収入を得ることができなかった場合は、休業損害を請求できます。
自賠責:4,200円/日(立証資料等により5,700円/日を超えることが明らかな場合は考慮する)
- 給与所得者(サラリーマン等)の休業損害
給与所得者の基礎収入は、源泉徴収票などをもとに休業損害を算出します。また休業期間中に有給休暇を使用した場合も、休業損害が認められます。 - 専業主婦の休業損害
専業主婦の休業損害は、厚生労働省の「賃金センサス」をもとに算出されます。 - 無職者の休業損害
「事故がなければ就職していた」場合は休業損害が認められる場合があります。その場合は、就職後に得られる収入をもとに算出します。 - 学生の休業損害
アルバイトをしている場合は、けがをしていたことにより失った収入が休業損害となり、治療が長期間にわたったせいで卒業や就職が遅れた場合には、事故がなければ得るはずだった給与が休業損害として認められます。
逸失利益
交通事故で被害者に後遺障害が残った場合、もし後遺障害をおわなければ、将来得られたはずである利益を逸失利益といいます。逸失利益は以下のように算出します。
逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数
基礎収入
被害者の基本となる収入のことです。事故直前の年収等がこれにあたります。
労働能力喪失率
後遺障害が残ったことにより、どの程度仕事ができなくなったかを示す割合です。本来ならば、現実にどの程度収入が減ってしまったかをみるべきですが、逸失利益算出のためのひとつのたたき台として、以下の表の割合を用います。
労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数
いわゆる中間利息控除をするための係数です。労働可能期間は67歳までとすることが多いです。
場合によって請求できる損害(将来の介護費、家屋改造費)
将来の介護費
医師の指示や症状により、将来、介護費が必要であると判断された場合に請求できます。多くは等級が1級や2級の重度の後遺障害の場合ですが、それより軽度の後遺障害でも認められる場合もあります。
赤い本:8,000円/日※ 職業付添人の場合は全額が支払われます。
家屋改造費
後遺障害の程度等により、必要な場合に請求できます。多くは等級が1級や2級の重度の後遺障害の場合ですが、それより軽度の後遺障害でも認められる場合もあります。改造の内容によっては、全額支払われない場合もあります(改造によって、ほかの家族も利益を得ている場合等)。
次のページでは、死亡した場合の損害賠償について、詳しく解説します。